ある朝のことです。当直中の私に救急看護師から一本の電話が入りました。
「○○救急隊から収容要請です。24歳女性。○○駅で電車を待っていたところ急に動悸がして息苦しくなり、居ても立っても居られない状態となったそうです」。
ほどなくして救急車が病院に到着し、私は患者さんを診察しました。顔は色白で少しぽっちゃりした体型。眼からは涙があふれ、ぐったりした様子でした。救急室で初期診療を担当する医師や看護師は、患者さんが来院されたあと真っ先にバイタルサインという生命兆候(意識状態、血圧、脈拍/心拍、呼吸、体温)を把握します。この患者さんでは、生命兆候に異常はありませんでした。引き続いて行った血液検査では貧血もなく、肝・腎機能に異常なし。心電図では不整脈も認められませんし、胸部単純写真も異常ありません。ここまでくると、私たち医師は「心臓や肺などの臓器にトラブルがある様子はなさそうだ。ひょっとして心に問題があるのではないだろうか」と思いを巡らせます。
一連の経過から、この患者さんはパニック発作と思われました。パニック発作をGeminiで検索してみると、「パニック発作は、突然の激しい動悸、息苦しさ、めまい、震えなどを伴い、「死ぬのではないか」という強い恐怖や不安に襲われる状態です。数分〜数十分(ピークは5〜20分)で自然に治まりますが、繰り返す場合はパニック障害の可能性があり、心療内科や精神科での治療が必要です」という情報が瞬時に得られます。便利な時代になったものです。今やパニック発作は一般の方々にもなじみのある病名であり、このホームページをご覧いただいている皆様の中にも、こういった症状に悩まされたことのある方もいらっしゃることでしょう。パニック発作は死に至る病ではありませんが、日常生活に支障をきたす可能性があるという意味では、看過できない病態であります。パニック発作の患者さんの多くは心療内科や精神科で治療を受けています。
ただ、私はこの患者さんをすぐに心療内科や精神科につなげるのにはやや抵抗がありました。もう少し患者さんの話を聞きたいと思ったのです。
既に血液検査や心電図、胸部単純写真で異常が無いことが分かっています。こういった場合、私は患者さんから「病に至った背景」をなるべく聞き出すようにしています。ほどなくして彼女はこう言いました。「最近天気が悪いことが多くずっと頭が痛かった。普段は生理痛もひどくて手足が冷えやすい。職場でも具合の悪い女性のスタッフがいて相談したらお風呂に入ると良いと言われた。今までシャワーで済ませていたのを入浴に変えたらだいぶ体調がよかった。でもここ1週間ほど職場の上司から辛く当たられて、出勤しようと思うとお腹が痛くなってトイレに駆け込んでいた。生きているのがつらかった」。彼女はこのように自分の思いを話してくれたのです。
確かに救急受診に至った症状はパニック発作として矛盾はしません。でも、パニック発作を発症せしめた原因は、彼女の言葉にありました。端的に申し上げると、患者さんは「体が冷えている」状態でありました。「手足が冷える」というのは、漢方的には「血虚」体質と言います。「天気が悪くなると頭が痛くなる」というのは、漢方的には「水毒」体質と言います。「血虚・水毒」体質、つまり色が白く手足が冷えてややぽっちゃり水太りした女性の事を言います。大正時代のロマン画家である竹久夢二が描く美人女性の多くはこの「血虚・水毒」体質の女性が多いそうです。
また、「血虚・水毒」体質の患者さんには、貧血はなくても鉄欠乏(隠れ貧血)の方が一定数含まれます。ヘモグロビンという貧血の指数が正常でも、鉄欠乏は存在するため、私は「フェリチン」という貯蔵鉄を測定しています。「フェリチン」が基準値よりも低い場合は、鉄欠乏と考え、鉄を豊富に含む食事の指導や、日常生活から鉄を効率的に摂取する方法を指導したり、鉄剤を処方することもあります。私は、こういった鉄補充等の栄養療法と漢方薬・鍼灸医療は一体と考えており、どれが欠けても治療がうまくいきません。
この患者さんは「フェリチン」が4ng/mlでありました。「フェリチン」の基準値をいくつに設定するかは今なお医学界でも議論の的でありますが、過去の文献から、最低でも50以上は確保していることが望ましく、理想は100ng/mlと言われています。したがって、この患者さんは典型的な隠れ貧血の状態でありました。鉄の不足で、パニック発作や片頭痛を発症する報告もあり、鉄欠乏に気づかず辛い毎日を送っておられる若い女性の方々は潜在的に多くいらっしゃるのではないかと感じています。
私はこの患者さんに「当帰芍薬散」という漢方を処方。そして不安を感じたときは「甘麦大棗湯」を内服するようお話しました。鉄不足も顕著でしたので鉄補充の生活指導も行いました。さらに下肢の内くるぶしから頭側に向かって4横指に位置する三陰交(さんいんこう)を優しく按圧しました。三陰交は、血虚改善の特効ツボとされており、このような患者さんにフィットします。この方は鍼灸の親和性が良好だなと感じました。
漢方薬の内服とツボ押しが功を奏して患者さんは笑顔で病院を後にされました。以後私の外来に定期通院いただき、漢方薬を飲みながら、鍼灸はワトナル鍼灸整骨院にお願いしました。この患者さんには、数か月後にはすっかり頭痛、めまいで悩まされることは減り、お腹の不調で悩まされることも減りました。
あの時、パニック発作と診断して、そのまま心療内科や精神科に紹介していたら彼女はどうなっていたのでしょう。心療内科や精神科で処方されるお薬は確かにパニック発作を予防する可能性はありますが、それは根本的な治療ではなく、あくまで症状を緩和するための対症療法にすぎません(標治と言います)。本当に大事なのは、その患者さん一人一人の体質を把握し、その体質を根本から改善するための手立てを考える事です。漢方薬の内服や鍼灸施術は、患者さんの体質(漢方医学的には気・血・水)の把握に重点を置いており、根本的な治療(本治と言います)になる可能性を秘めています。
ぜひ頭痛やめまい、お腹の不調などでお困りの皆様は、一度ワトナル鍼灸整骨院の門を叩いてみてください。辛い日常生活から少しずつ開放(快方)され、厳しい時代を生き抜くためのレジリエンスを体得頂けることに気づく事でしょう。
皆様のご来院を心よりお待ちしております。
中野弘康
※本記事は中野弘康先生にご寄稿いただいた内容です。
※掲載内容は医師個人の見解であり、施術の効果を保証するものではありません。






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ワトナル鍼灸整骨院でございます。